スミイカをシャコで釣るのが辛いのにやめられない

江戸前寿司の定番ネタとして欠かせないスミイカ。そのスミイカをシャコで釣るという東京湾の伝統的な釣りがある。これがなかなか地味に辛い釣りなのだが、謎の中毒性があり、やめられない。

どれくらい辛いかと言うと、体の弱い私は翌日寝込むくらい。にもかかわらず、今シーズンも既に2回チャレンジしてしまった。そんな辛くて不思議な魅力があるスミイカ釣り、私の最近の釣行について書きたいと思う。

今シーズン1度目、2年ぶりの挑戦

昨年は色々あって釣りに行けなかったので2年ぶり、多分通算4回目のスミイカ釣りに出かけたのは11月のこと。久しぶりのことだし、体力的にも自信がなかったので忠彦丸の半日船をチョイスした。

午前中フグを釣っていた釣りの先輩であるYさんとTさんと船着き場で合流。
着くなり、「はい、コレ」とTさんがイイダコをくれた。フグ船のゲストとして釣れたらしい。 やったね、これでボウズでもお土産確保!って縁起でもないことを言ってはいかん。自力で釣るぞ。

▲タコもイカと同じ頭足類だし、可愛いよね

楽しい餌付け

YさんとTさんから午前中の釣果について聞きながら船に乗り込み、餌を受け取る。
スミイカの釣り方は2種類あるが、私がいつも挑戦するのは冒頭で紹介した通り、餌にシャコを使うシャコテンヤ。オモリとハリが一体になったテンヤと言う仕掛けに生きたシャコを取り付けて釣るのだ。贅沢!

▲生きたシャコは硬くて格好いい

▲これがスミイカ用のテンヤ。2本の針に引っかけるようにして釣る

餌のつけ方がなかなかえげつないので見てほしい。
まずシャコのカマを容赦なくハサミで切り取る。最大の武器を奪われてなすすべなしのシャコ。続いて尾の中央部分をV字に切り取る。そしてここからが特にヒドイところ、切り取った部分からテンヤについている竹串をズブリと入れて、目の手前まで差し込む。うう。シャコには生まれたくない・・・。目の付け根までグッと竹串を刺すと、目がキュッと立って見栄えが良くなり、釣果に影響するとかしないとか。後は輪ゴムでテンヤにシャコを括り付けるだけ。

シャコには悪いが、私は結構この餌付けが好きだし得意なのだ。生き物を触るのがまずワクワクするし、まっすぐ綺麗に取り付けられたシャコを見ると「よし、これなら釣れるぞ」という確信が生まれてくる。この信ずる心が釣りには大切である。

テンヤの上に、スッテと言う疑似餌を取り付けて準備は完了。

右のオレンジ色のがスッテ。スッテを付けるのは邪道と言う人もいる

Yさんは私と同じシャコテンヤ、Tさんは餌を使わずエギという疑似餌で釣るエギングという手法でチャレンジ。

YさんもTさんも釣りの経験で言えば私よりはるかに先輩であるが、Tさんはスミイカ釣りのブランクがかなり長いと聞いたし、Yさんにはイカへの愛と言う意味では全く負けていない。この時点では「自分が一番釣っちゃうかもな。たくさん釣れたら分けてあげよう」などと、呑気というか傲慢な根拠のない自信を持っていた。

始まるシャクリ地獄

なんやかんやしている間にポイントに到着した。
ドボンとテンヤを海へ入れて、釣り開始。テンヤでスミイカを釣るにはこうだ。底にテンヤがついたら5~10秒ほど待って、鋭く竿をしゃくる。シャクリというのは竿をあおる動作のこと。海中でシャコが生きているかのように跳ねるのを想像しながらしゃくる。しゃくったらそ~っとテンヤを着底させる。これも生きたシャコがスーッと海底に下りるのをイメージしながら。ここでドスンと雑に着底してしまうとスミイカが驚いて逃げてしまう。これをひたすら繰り返し続ける。

スミイカ釣りで最も辛いのがこのシャクリである。
それなりに重い仕掛けをそれなりに深いところで持ち上げたり降ろしたり。しかもしゃくるときはビシッと鋭く(状況にもよるが)、下すときは繊細に、と神経も使う。

10秒でワンセットとした場合、1日船で実働6時間だとしても2000回以上この動作を繰り返さなければならない。半日船でも1000回。その上、スミイカは「1杯釣るのに1000回しゃくる」となどと言われるほど、簡単には釣れてくれないものなのだ。10杯も釣れば名人で、素人はボウズもザラである。

そうそう、この感じ。
ポカポカ陽気で浮かれていたが、ようやくこの辛さを思い出してきた。この修行のような釣りの醍醐味は着底したテンヤにイカが抱きついた後のシャクリで感じる、「ドスンッッ」という強烈な重さだ。これを味わうために心を無にしてしゃくり続けるのだ。

▲無になっている私

流れない潮、募る焦り

この釣りでは、底にテンヤを置いている間、テンヤが動いてしまわないように糸も緩めておくので、「アタリを感知→アワセる」という動作は基本的にない。しゃくってはじめてイカが乗っているかどうかが分かる。いわばくじ引きみたいなものである。

はじめこそ「次は当たりかな~」なんて気楽にしゃくっていた私だったが、引けども引けども出るのはハズレばかり。 商店街のくじ引きで誰かが当てると鳴るカランカランという鐘の音は、こちらに期待をもたらしてくれるものだが、今日の船中では未だ誰も鐘を鳴らしていない。ここにはイカはいないんじゃないか。そんな疑念がふと頭をもたげてくる。

よくみると潮がぜんぜん流れていない。
そのせいでイカの活性が低いのだな。それでもこちらは辛抱強くしゃくり続けるしか術がない。とか言ってたら船中ポツポツ釣れ始め、Yさんもヒット。さすがは私のスミイカ釣りの師匠である。苦しい中でも確実に釣る。

と、左隣でこっそりエギにエビ(フグ釣りの餌のあまり)を巻き付けたりエギを変えたりと試行錯誤していたTさんにも待望の時がやってきた。

▲このシルエットは・・!

スミイカだ!
喜びながら写真を撮るTさんの手からつるっとイカが滑り落ち、水の入ったバケツにドボン!いなや、ブシューと噴き出る墨のジェット噴射。これがよく飛ぶんだ。 私は辛うじて直撃は避けられた。Tさんは結構浴びていたが、それさえもなんだか羨ましい。こちとら、まだ釣ってもいないのにヒトの墨を浴びてる場合じゃないのよ。くそ~私だってイカだ墨だと騒ぎたい。

悔しいけれど自分の近くの人が釣れると少し希望が湧くというもの。不思議と疲れが回復し、竿を持つ手に力が入る。なんて持ち直したのは一瞬で、すぐに不安が襲ってくる。まさかこのままボウズ・・。YさんもTさんも次のイカをあげているというのに、私の竿にはウンともスンとも反応がない。

何が悪いんだ。
ここまで釣れないと何を信じればいいのかわからなくなり、悪あがきをはじめる。 Y師匠に教えを乞うてみたり、スッテの色を変えてみたり、シャコを付けなおしてみたり。 師匠によれば私のシャクリは悪くなさそうだという。ならばなぜイカが来ないんだ。船中で最もイカを愛している自信があるのに!

待ちに待ったアタリ・・・?

気づけば脳内で歌が流れ始めていた。「♪負けないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くこと、駄目になりそうなときそれが一番大事~♪」 そうだ、大事MANブラザーズの言う通り、釣れると信じて最後までしゃくり続けることが大事・・・大事・・・

ズシッ。

来た、私にも報われるべき時が。

と0.3秒くらいは思ったのだが、何かがおかしい。魚が暴れるような振動がほんの少しだが伝わってきたような気がする。 気のせいであってくれと祈りながら糸を巻く。「もしかして、来た?」と期待を込めた瞳でこちらをうかがうYさんとTさんに向かって、私は一体どんな顔をしていただろうか。

そして上がってきたのは・・・・

▲君か・・・

フグ。
しかもサバフグ。全身の力が抜けた。もうダメだ。私の信じる心はバッキリ折れてしまった。こうなるともう、いけない。もうイカの存在も自分のシャクリも信じられなくなった私は、ここから納竿までの記憶がない。気づけば港へ着いていた。

厳しい状況の中、Yさん5杯、Tさん3杯と健闘するも、私はボウズ。
あまりの肩の落としように、Yさんが優しくスミイカを分けてくれようとしたが、固辞。これは浮ついていた自分への戒めである。次は必ず釣ってやるとこぶしを握り締め、腕と肩と心に蓄積されたダメージと共に帰路についたのであった。

▲貰ったイイダコと餌のシャコで切ない晩餐。でも美味しかった

リベンジ戦@三喜丸

あの惨めな釣行から2週間後、私はまた金沢八景にいた。 もちろんスミイカリベンジをするためである。今度は気合を入れて1日船、三喜丸での挑戦だ。 実はこの船宿、私が過去最高の7杯を釣り上げたところである。その日たまたま報知新聞の取材が来ており、新聞にに大きく写真が載ったりした。

▲船宿にはまだその時の新聞が貼ってあった

輝ける過去の私よ。今日の私に力をおくれ。またボウズだったら私は立ち直れない。願いを込めて船に乗り込むと、ぎっちぎちの満員。今回も同行のYさんも過去見たことのないほどの混雑だという。オマツリが心配だな。

シャコにズブズブと竹串を刺していると、船長のレクチャータイムが始まった。 ここ三喜丸では船長がしっかり釣り方を教えてくれるのだ。謙虚な気持ちで指導を聞く。 海底で絶対にシャコを動かさないで待つ、竿先を下げ過ぎないなどの諸注意を確認していざ出航。

▲この通りやれば間違いないからと我々を鼓舞する船長

狂乱のオマツリ騒ぎ

寒い。
そうだった。前回は天気も良く昼からだったので気にならなかったが、夜が明けたばかりの冬の海は恐ろしく寒い。 カスタネットよろしく上下の歯をカタカタと鳴らしながら仕掛けを投入。

すると、10回としゃくらないうちに嫌な感触が。 引きあげてみると案の定、オマツリだ。私だけではない。船のあちらでもこちらでもオマツリしている。同時多発オマツリ。 潮の流れが速かったうえ、この人口密度だから無理もない。 絡んだ仕掛けをほどきながら、スミマセンと会釈。気を取り直してしゃくり始めると、また15分くらいしてオマツリ。 ほどく、下ろす、しゃくる、オマツリ。ほどく、下ろす、しゃくる、オマツリ。

ウォオオオ。
隣の人とオマツリするならともかく、3人先の人の仕掛けがこっちまで流れてくるってどういうことじゃい。 周囲の人々もはじめこそ苦笑いで対応していたが、だんだん表情筋が死んできている。

▲オマツリするたびに心がすり減ってゆく

オマツリの悲劇は続く

これじゃあ釣りにならない、せっかくリベンジにきたのに、と早くも腐れ気味の私に突然、待ちに待ったアレがきた。

ズッシーン!!

待ってました、これだよこれ!全身の毛穴が開くような興奮が湧き上がってくる。イカだ。イカに違いない。ドキドキしながら巻き上げるとそこには夢にまでみたスミイカの姿が…

あれ。よその糸と絡まってる。しかも3人オマツリ。ああ、どうか、願いも虚しく水面でイカはサヨウナラ。 今シーズン初めての本命ヒットだっただけに、それはもう悔しい。唇を噛み千切るほど。自分でも驚くほど深いため息が出た。

しかし取り込みに失敗したとはいえ、私の誘いにイカが乗ってきたことは間違いない。先日見向きもされなかったことに比べればなんてことないさ。私のしゃくりは間違っていなかったのだ!!

待望のスミイカ

寒さも眠気もどこへやら、自信を取り戻した私は張り切ってしゃくる。相変わらずオマツリはするし、肩も腕も疲れるけれど、一度でもイカが乗ったという事実が元気の源となっていた。諦めずに、よいしょ、よいしょ、としゃくっているとまたキタ!

今度こそはと慎重に巻き上げる。先程のこともある。またオマツリかもしれない。期待しすぎないようにと高鳴る鼓動を抑えつつひきあげると、やった、今度は無事取り込めた!!今シーズン初めてのスミイカGETだー!

▲喜びのキメ顔(みえない)

なんて格好いいイカなんだ。思わず何枚も写真を撮ってしまう。力強い足にいかつい模様。この姿を見るために、寒い中重たい仕掛けをしゃくり続けたのだよ。もうこの1杯ですべての苦労が報われたような気持になる。

しかし感慨にふけっている場合ではない。よそでもポツポツ釣れているから今がチャンスタイム。イカを眺めるのは後にして苦行に戻る。するとまたまた来ましたスミイカちゃん。たぎるアドレナリンに手も震える。

▲私のところへ来てくれてありがとう

2杯釣って、ポイント移動になったのでようやくひと心地。
かわいいかわいいスミイカの観察タイムである。バケツからこちらの様子をうかがうように足をひょいひょいと伸ばしてくるのがもう、たまらなくキュート。指で撫でてしばし戯れる。

▲伏し目がちな表情がそそる

我慢できなくなってバケツから出してみた。ずんぐりした体型がお茶目な雰囲気。抱きしめたいけれど墨爆弾が怖いのでそーっとバケツに戻ってもらった。

▲釣り上げた直後より透明感が増している

その後もちょこちょこヒットがあり、最終的には釣果3杯、バラし3回となった。うち2回のバラしはオマツリのせいということもありやや悔しさが残るが、ボウズを体験した身としてはこれでも十分嬉しかった。

2週間前の自分の仇はとったぞ。行きよりも重くなったクーラーボックスが誇らし気に抱えて、無事リベンジ戦を終えたのだった。

寝込んでも懲りない

例によって翌日は寝込んだ。
肩・腕・腰がギシギシと軋み、起き上がれない。それでも布団の中で考えるのは次のスミイカ釣りのことばかり。いつ行こうかどうやって釣ろうか・・・。イカがかかった時のあのガツンッという衝撃が忘れられないんだよなあ。

道具も特殊だし誰にでもおススメする釣りではないけれど、ハマッたら抜け出せないかも。責任は取れません。

▲おつかれさまでした~