パタパタ泳ぐ、耳が可愛いミミイカを愛でて食べた

「Pさんがミミイカを捕りに行くらしい」というウワサを聞きつけた。
ミミイカというのは手のひらに乗るほどの小さなイカで、丸っこく可愛らしいその姿からペットにする人もいるという。西日本の一部地域では食用にもなっているようだ。

イカ釣りチャレンジのリストにも入れており、会いたいイカの上位に入っているのだが、自力ではどこを探せばいいのか分からず困っていたところ。このチャンス逃すまじ、と同行させてもらってきた。

集合は平日の夜。
普段の私なら翌日の心配をして自重するところだが、なにしろミミイカだからね。まだ見ぬイカに会う以上に優先することなんてない。というわけで、海に入るための装備を担いで出社。この日は夕方に打ち合わせがあり、時間的にこの装備を持って客先に行かねばならなかった。説明するとお客さんは面白がってくれた。こういうことに理解のある上司とお客さんでよかったな。

▲会社ではこれから登山ですか?と聞かれた

夜の海にワクワク

気もそぞろに仕事を終えて、関東某所の海へ。着くなりウェーダーを着てヘッドライトを付け、海にザブザブと入っていく。
当たり前のように書いたが、私はアウトドア慣れしていないのでこれだけでもうワクワクが止まらない。夜の海に。ザブザブですよ。探検だ!

▲このまま海へ入るワイルド感に高まる気持ち

Pさんいわく、ミミイカは岩場と接している砂浜に棲んでいるらしい。フワフワと泳いでいるところを網ですくうのだそうだ。海中に目を凝らしながら歩き回るが、なかなかミミイカらしきものが見つからない。

▲君はイトマキヒトデだよね

▲丸々と太って美味そうなアメフラシ。だが私は君を茹でると固く縮んで美味しくないことを知っているよ

ミミイカは一向に見つからないが、普段気軽に会えない生き物たちとの触れ合いをエンジョイ。一つ一つの出会いが新鮮だから、ついつい歩みが遅れてしまう。すごい密度で生き物がいるんだもんなぁ。でもそろそろ本命に会いたいな。

澄んだ海でミミイカとの出会い

最初の場所は少し潮が濁りすぎているとのことで、ポイントを移動。
こちらはすんなり底を見通せるほど水が澄んでいて期待も高まる。

シラウオっぽい魚の群れやダイナンギンポの子供っぽい魚にうつつを抜かしているとすぐに、Pさんの「いたよー!」という声がした。はやる気持ちを抑えつつ、しぶきを立てながら駆け寄ると、そこには黒くて丸っこい物体が!

▲この時点ではゴミにしか見えない

「ほら、まいけるさん、すくって」
うながされて網ですくうと、小さくて黒っぽい生き物が入っていた。

▲イカ・・・?

そーっとバケツに移す。
耳(ヒレ)をパタパタとさせてゆっくり泳ぎ始めたのを見て、ようやくイカだとわかる。普段スーパーで見かけるイカの姿とはずいぶん違う、ずんぐりむっくりとした体をしている。とても小さい。やった!ミミイカだ!

▲初めまして、ミミイカくん

イカについては図鑑やyoutubeで調べすぎているので、出会った時の感動が少ないのではと懸念していたがそんな心配は無用だった。本物の体験は何物にも勝る。

ミミイカ、こんなに幻想的で素晴らしい色をしているのか! 黒っぽい紫色の色素胞が全体にちりばめられていて、その隙間からメタリックな青や緑のような輝きがのぞいている。

▲まるで宇宙を閉じ込めたみたい

▲胴を縦にぎゅーんと伸ばして逃げようとするさまはイイダコのよう

▲またしてもPさんがすぐに見つけた2匹目

しまった、ついつい観察に夢中になってしまったが、まだ自分でミミイカを見つけていないのだった。Pさんにばかり見つけさせている場合ではない。潮が引いている時間は短いから、観察は後回しにしてミミイカを探そう。

中腰で海中を照らしながら波打ち際をうろうろとミミイカを探す。そういえばこんなこと、前にもあったなと思ったら粟島でタコ捕りをしたときだ。あの時は結局1匹も自力で捕れなかったんだよな・・・・。

と、不吉なことを思い出しながらも諦めずに目を凝らす。
それらしい影はたくさん見かけるのだが、実際すくいあげてみると海藻かゴミで、そのたびに肩を落とした。

▲これこそ間違いないと思ったがやっぱり海藻だった

諦めて観察しよう

いつの間にかまたPさんが3匹目を見つけてきたところで、急に風が強くなり雨も降ってきた。根性的な意味ではまだいける感じだったが、水面が波立ってしまうとミミイカ探しは困難。イカは真水を嫌う(塩分濃度の変化に弱い)とも言われるので、今回の捜索は打ち切ることに。 悔しいけれど仕方ない。気持ちを切り替えて、ミミイカが元気なうちに観察だ!

光の加減なのか、捕まえたての時と比べてもっと妖しく内側からぼや~と光っているように見える。特に体のふちの青みがかっているところが美しい。ミミイカは体内に発光器を持っているので、たしかに光っても不思議ではないけれど、このぼぅっとした輝きが発光器によるものなのかはよくわからなかった。

▲「生きた宝石」という表現、虫によく使うけれど、ミミイカにも相応しいと思う

ミミイカの名前の由来である、パタパタ良く動くミミ(ヒレ)がなんと言っても一番のチャームポイント。動画にしたので見てください。耳をパタパタとはためかせながら一生懸命泳ぐ姿はコミカルで、眺めていて飽きない。

▲実際はもっとずっと鮮やかに輝いているんだ

いつまでもここで見ていたいのはやまやまだけれど、そういえば今日は平日、週のド真ん中。もう遅いので帰りましょう。

イカオタク的には持ち帰ってから本領発揮

もう夜も遅いのでミミイカは冷凍してさっさと寝ようかと思っていたのだが、全然興奮が冷めずに眠れないのでそのまま観察することにした。

▲捕まえられて袋のネズミ、いや袋のイカか。

帰りを待っていたさのくに氏に見せるとすかさず、「ミミガー」と名前を付けていた。私が食べるつもりで捕ってきた生き物に名前を付けるのが彼なりのイタズラらしい。なかなかいい名前じゃないか。

持ち帰ってきた海水が少なかったのでウィスキー用のグラスに入れたら、あつらえたようにピッタリ収まった。見た目は可愛いけれど、これでは長くは持たなそうだな。ごめんよ。ああ、そういえばミミイカは砂に潜る性質があり、足で砂をかける仕草が可愛いと評判なイカでもある。砂も持ち帰って来ればよかったな。

▲元気がないミミガー

酸素が少ないのか、ほどなくして動かなくなってしまった。色もどんどん薄くなっている。死が近いようだ。ミミガーに残された時間は少なそうだが、冬の海から上がってきた私の体はすっかり冷え切っている。まずは風呂に入ってから、と思っていたら頭を洗っているときに「ミミガー死んじゃった」とさのくに氏から報告が。見ると墨を吐いてこと切れていた。看取ってやれなくてごめんな、ミミガー。

▲イタチの最後っ屁ならぬイカの最期墨。

本当にミミイカなのか、まずは同定しよう

ミミガーよ。君の死は無駄にするまい。
初っ端からミミイカ、ミミイカ、と呼んできたが、そもそも本当にミミガーはミミイカだったのか。というのも、ミミイカに似た種類がいくつかいるのである。一つずつ特徴を追って観察してみよう。以下、イカオタクにしか需要のない話が続きます。

丸いヒレ、ドーム状で頭部と癒着する外套膜(胴)、ここまではミミイカの特徴として間違いない。

▲生前の姿との差が激しい

まず、ミミイカと似たイカとしてダンゴイカと言うのがいる。彼らもミミイカと同じように日本各地の砂地に生息しており、姿がそっくりなのである。その見分け方は大きさと吸盤の配列。 ミミイカが胴長(足と頭を含めない胴だけの長さ)4cm程度になるのに対し、ダンゴイカは2cm程度にしかならない。ミミガーは4cmくらいあるからまずミミイカとみて間違いないだろう。でも一応吸盤も確かめておきたいな。

▲ペロリ。

小さすぎて全然見えない!
吸盤が横に2列なのがダンゴイカ、4列なのがミミイカなのだが、小さすぎてさっぱり分からなかった。こりゃ参ったな。

大きさ的にミミイカでいいと思うのだが、実はミミイカの中でも「ミミイカ」と「ニヨリミミイカ」という超ソックリのイカがいるのである。専門家ではないので難しいと思うけれど、同定できないかチャレンジしてみる。

ニヨリミミイカの腹側のヒレには色素胞があり、ミミイカにはないらしい。ひっくり返して腹側を観察。写真では分かりづらいと思うが、腹側のヒレには色素胞がなさそうだ。(粒々がみえるけれど、これは背側の色素胞が透けているだけ)

あと吸盤の状態も同定の決め手になるのだが、この分だと難しそうだ。ミミガーは「多分ミミイカ」と言うことにしておこう。

▲漏斗がある方がおなか側

発光器を確認したい

先に述べたように、ミミイカは体内に発光器を持っている。発光器と言ってもイカが自ら光るわけではなく、シウドモナス・ユウプリムナという発光するバクテリアを体内の部屋に住まわせて共生関係を築き、光らせているんだという。すごいことをしているよな。本で読んだ知識だけど、やっぱり見て確かめたいじゃないですか。というわけで開腹。

▲ミニチュアサイズのイカを解剖

開いてみたはいいもの、スルメイカとは勝手が違う。何もかもが小さすぎる。 発光器は墨汁嚢(墨が入った袋)の上にあるという情報を頼りに、黒い塊をつまみだしてみた。 すると、透明なレンズのようなものがついているのを発見!

▲黒い塊の中の透明なところ、わかりますか

これが、あの!レンズ!
みなさん、これは喜ぶところですよ。ミミイカの発光器の腹側にはレンズがついており、そのレンズによって光を拡散させていると本に書いてあったのだ。つまり、このレンズのすぐ近くに発光器がある!

・・・期待を込めてピンセットでこねくりまわしてみたのだが、墨汁嚢に覆われて発光器は確認できず。発光器と言ってもバクテリアを住まわせる袋みたいなものだからはっきりと形を見るのは難しかったのかも。でもまぁレンズを見られたから満足だ。

味もみておこう

他の臓器はちょっと小さすぎて観察が難しかったので断念。
ミミイカは食用にもされているイカなので、茹でて食べてみよう。

▲茹でたらなんだかUSBメモリのようになってしまった

ホタルイカサイズなので一口でパクっとイケそうだったのだが、ふと思いとどまって解体。やっぱり。茹でたことによって形がしっかりして、吸盤が観察しやすくなっている。

吸盤の配列を数えてみると、4列あった。これでダンゴイカではなくミミイカと言い切れる。 そしてミミイカとニヨリミミイカを見分けるポイント、大きな吸盤の付き方を見てみる。ミミイカは腹側の吸盤だけが大きくなるけれど、ニヨリミミイカは腹側も背側も大きくなるという。ミミガーの吸盤は腹側だけが拡大しているので、やっぱりミミイカでよさそうだな。

そして、イカのオスだけにある特別な腕、「交接腕」も確認することができた。
下の写真の丸の中の腕がそれである。他の腕と違って先端部に吸盤がなく、乳頭状の突起が並んでいるのが分かるだろうか。イカは交接(交尾のようなもの)の時にオスが精子の入ったカプセルをこの交接腕でメスに渡すのである。精子のカプセルはちょっとした刺激ではじけて中身が出てしまうので、このような特別な腕を使う。イカの種類によってこの腕の位置は変わるのだが、ミミイカの場合は左第Ⅰ腕である。

▲これが交接腕。テストに出ますよ(でません)

これでミミガーはダンゴイカ目ダンゴイカ科ミミイカ属のミミイカのオスだ(多分)と言うことが改めて確認できたのだ。やったー!

興味ない人にはだからなんだという話ではあるのだが。本で読んだことを実地で確かめる喜びというのは確かにある。久しぶりに味わったな。

満足したので、ぱくりと一口。
なるほど。ホタルイカをイメージして食べるとうまみはだいぶ薄い。「肝に独特の風味アリ」「肝がうまい」などという記載をどこかで見かけたのでちょっと期待したのだが、やや生臭くてそんなに好きな味ではなかった。 でもこういうのって食べてみないとわかりませんからね。いい経験になった。

【2019/03/05追記】
詳しい方から、初夏ごろの卵・精莢持ちの個体をまるごと天ぷらにして食べると良いという情報を頂いた。これは是非試したい。

リベンジしたい

今回はPさんに頼りきりで、自分で見つけることができなかったので、次は自分で発見する喜びも味わいたい。再トライしよう。

▲夜の海、楽しかったな

今回、Pさんのほかに一緒に同行させてもらった、ライターの玉置標本さんが同日のことについて記事を書かれています。自分もその場にいたのに、読んでるとワクワク感がすごい。また行きたい。

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